塾生保護者限定記事です。
世の中にはいろいろなマニアがいます。
「高校入試問題マニア」もいるんですね。
毎年、全国の公立高校入試問題を全科目全問、解いている人がいるんですよ。
学習塾向け教材販売会社の人です。
業務上解いている面はあるでしょうが、ほとんど趣味なんでしょう。
セミナーでは非常に楽しそうに話してくれます。
さて、そんな入試問題マニアから教えていただきました。
また、私自身が普段思っていることが裏付けられたと思います。
以下、ご説明します。
結論
文系科目だけで恐縮ですが、結論は決まっています。
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国語・英語・社会共に
語彙力※国語においては抽象語力
✕
教養力=世の中を知っている力
で決まる。
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ずっと以前から私が主張していたことでもあります。
入試問題が簡単で有名な香川県ですら、抽象語、抽象的な文が大好きなのです。
普段、入試問題を見る機会ってあまりないですよね?
香川県で出題された国語の文章を、少し時間を取って読んでみていただけますか?
2021年度出題
多くの人々は、この押し付けられた他律的な規律を内面化し、それに合わせようと固執しつつも、そうなりきれないでいる。
そして、そこから生じた自己否定的な感情を他者へと投げつけ、「普通ではない」他者を排除しようとする。本人は「普通」になろうと頑張っているのに、「普通」ではないくせに「ノウノウと生きている」人々が許せなくなる。日本の社会は、この「普通」、すなわち、権威や権力への恭順によって個人が結びついている階層的な構造をしている。
「普通」によって成り立っている社会には対話はない。対話をするならば、何が尊ぶべき規範であるかを議論できるだろう。それはこれまでの「普通」とは異なる規範かもしれない。だから、権威と権力に執着する者は対話を恐れる。
2022年度出題
社会的感受性のまず第一は、現場の事実、生活者の「意味世界」を重視し、そのリアリティから物事を見ようとする姿勢だ。
「意味世界」とは、人が、自分を取りまく世界について、こうなっている、あるいはこうあるべきだ、と解釈しているその体系だ。決められた枠組みで物事を見るのではなく、現場の人びとの意味世界から何かを見よう、考えようという姿勢が、社会学的感受性の第一だ。
数字で表せない、言葉や感覚で表されるものへの感性、「自然との共生」「持続可能性」といった大きな物語に収斂されないものへの感性とも言ってよいだろう。
それぞれの地域、それぞれの人生には、決して代替できない固有の価値があり、意味がある。そこに思いをいたすことが、まずもって大切なことだ。
2023年度出題
私たちの一人一人は、ただ個人として在るでないばかりか、単に集団の一員として在るものでもなくて、意味を持った関係性のなかにある、とこそ言わなければならない。
だからこそ、自分では社会や政治にまったく関心を持たなくても、私たちはそれらと無関係にいることはありえないことになるのである。
むろんそれは、物理的、自然的な関係ではなく、意味的、価値的な関係である。そうした関係の中では、すべての態度、なにもしないことでさえ、いわば一つの行為になり、なんらかの意味を帯びてくる。
説明文は出ない
このレベルの文章は当たり前に出ます。太文字で示した言葉が分からないと恐らく読めません。
最近の入試問題、特に、香川県の入試問題の傾向として、もはや「説明文」は出ないと思って良いかと思います。
説明文ではなく、上記のような「評論文」ですね。
説明文は、事実ベースの説明が95%で、最後に若干筆者の意見がある…というイメージ。
評論文は、事実ベースが半分で、残り半分が筆者の意見、思考が中心になる…というイメージです。
そして、述べている事柄は抽象的なことです。
これは、恐らく今後も同じでしょう。
小説文ならできるか
評論文は難しいとしても、小説文なら大丈夫なのではないか?
そうとも言えません。
大切なことがあります。
自分が経験していないことは想像しにくい、ということです。
場面も気持ちも、です。
だから、小説文が分かる分からないは、語彙力ももちろんですが、ある程度人生経験値に左右されます。
ですので、体験値が少ない子は想像できる場面・気持ちが少なく、読み取れないことになります。
英語の長文
英語の長文は、英文自体が「世の中」になっています。
長文だけでなく、英作文のテーマも同様です。
「地域創生」
「インターネットショッピング」
「タブレット端末の利用」
「伝統文化の継承」
「ヴァーチャルリアリティ」
「オーバーツーリズム」
「宅配便の再配達システム」
「キャッシュレス決済」 等々。
英文を読む、英文を書くという能力以前に、それらの内容を知っている否かが大事です。つまり、「世の中を知っているか否か」です。
>海外から留学生が来て、日本を紹介する。その子が国元に帰ってから手紙のやり取りをする
みたいな文章は出ないのです。(香川県は相変わらず出ていますが)
入試問題の傾向においては一周遅れになっている香川県でも、そのうち出るものと思われます。
社会公民
社会では、地理、歴史、公民が3分の1ずつぐらいの配分で出題されます。
公民はほとんど「世の中」と言っても良いでしょう。
国際社会(紛争系・外交系)、SDG’sは、もう定番中の定番であり、知らない方が悪いというレベルです。他にも、
「IoT」
「マイクロクレジット」
「選挙」
「パリ協定」
「人口減少」 等々。
以前は、こういったテーマは「時事問題」として、知識を問う問題とは一線を画していましたが、今は「世の中」がベースになって出題されます。
塾で取り組んでいること
以下は、小学5年生以上を対象に行っていることです。
今年から「抽象語強化」を始めています。
よく出る抽象語、知っておくべき抽象語のプリントを作成したので、家庭でも取り組んでもらいます。
「世の中」に関しては、小学5年生6年生は、「月刊Newsがわかる」を、中学生は、学年や能力に応じて「SDG’s」「哲学」「AI」「生物学」等の書籍を読んでもらっています。
これらの題材を基に、言葉調べ、要約をやっています。
大雑把で良いので「世の中」を知っていこうね、というつもりです。
尚、小学3年生4年生は、「将来は、世の中・抽象語が大切になるぞ」というつもりで、その下準備をしています。「たくさんのふしぎ」もその一環です。
家庭で意識してほしいこと
家庭では、「世の中」を知ることを意識してほしいと思います。
入試に出るというのはもちろん重要ですが、それ以前に「世の中を生きていない」と感じる子がいるからです。
小学高学年以上になっても
「パンデミック」
「コロナ渦」
「統一地方選挙」
「円安」
「ウクライナ侵攻」
「G7サミット」
等に関して何も知識がない子がいます。
「世の中を生きていない」と感じます。
それどころか、一人で電車バスに乗れない、買い物ができない、自分の日々のスケジュールが分からない、という子すらいます。
「世の中を生きていない」ですよね。
「夕立」「交番」「霧」「停留所」のような日常の身の回りのことを知らない子がいます。
「世の中を生きていない」ですよね。
世の中を見せてあげてください。
自分でできることを増やしてください。
勝負所
こうやって考えてきますと、結局、大胆に言いますと
問題に向かう前に勝負は決まっている
ということになります。
国語でも英語でも長文の題材が円安だったとします。
・円安時・円高時の海外との商品購入の経験がある子、
・文字上ではあるけど円安の知識がある子、
・全く初めて円安という言葉を聞く子、
問題を読む前に勝負はついていますよね?
更に、初めて円安という言葉を聞く子が、何とか読もうとしても、抽象語がどんどん出てくると結局、何を言っているのか分からないということも十分あります。
問いにたどり着く前に勝負はついていますよね?
今、授業中でも、点数を取るための答え方、テクニック的なことも教えています。
が、文意が分からない子には、そういったこともほぼ無意味なのです。テクニックにたどり着けないのです。
文意が分からないのは、言葉を知らないことと世の中を知らないことが原因です。
まとめ
机の上だけでしか勉強していない頭でっかちは要らない
というメッセージを強く感じます。
これは高校入試に限らず、どの段階の入試でも同じ傾向です。
かつては「重箱の隅」を問うような問題が多くありました。最近は減りました。
その代わりに増えているのが、「世の中を知っている力を問う」問題です。
「読む力が問われている」と言われています。それは正解ですが、その下支えになっているのが語彙力・抽象語力・世の中を知っている力、です。
この傾向は当分続きます。
ですので
◆ニュースを見て何が起こっているかお子さんに解説をしてもらう
◆そして、どう思うか? どうすべきかを述べてもらう
◆親御さんの所見などを伝えたり、背景を説明したりしてあげる
◆今までに体験したことがないことを体験したり、行ったことがないところに出かけたりして刺激を増やす
◆普段の関心とは離れたところの書籍、動画などを経験する
こういったことを通して、体験値を増やし、世の中を見せてあげてください。また自分でできることを増やしてください。
以上が、入試に求められていることだけに留まらず、今の若い人に求められていることだと確信を持っていますのでお知らせしておきます。